子どもの病院への付き添いで親がするべきこと
子どもが体調を崩して、不安にならない親はごく少数派です。ましてや、入院ともなると「うちの子は大丈夫か」と不安で頭がいっぱいになるでしょう。
そして、子どもが小さい場合(目安としては小学校入学前)、入院に際して保護者(親)の付き添いが求められることは少なくありません。
そこで、子どもが入院することになった場合、親がするべきことをまとめました。
1.周囲への理解を求める
病院によっても方針は異なりますが、子どもが入院する際の付き添いに関し
- 1家族1人まで
- 夜間の付き添いは母親のみ
など、付き添いに対応できる家族について、条件を設けていることがあります。
そのため
- やむを得ず仕事を休まないといけない
- パートナーに代わって家事をするために定時で帰らないといけない
- 子どもが複数いる(兄弟姉妹がいる)場合は、入院していない子どもの面倒も見ないといけない
など、子どもが元気な時には想定もしなかったイレギュラー事象が起こります。
全て自分たちで何とかしようとしてもうまくいかないのは明らかなので
- 勤務先に事情を話し、理解を求める
- 家族や親族、友人・知人に事情を話し、協力を仰ぐ
など「自分たちでしなくても良いことはやらない」体制を敷きましょう。
また、子どもが今、どういう状況なのかを的確に説明し、理解を得るためには、医師から聞いた話を整理して伝えやすくすることが重要です。
医師から聞いた話は一度では理解しにくいことがほとんどのため、アプリ「診察ノオト」で録音しておきましょう。
2.使えそうな公的制度を調べる
夫婦共働き家庭の場合、どちらか一方の親(主に母親のことが多い)が仕事を休んで付き添わないといけないこともあります。
この場合「子の看護休暇」をまずは使うことを検討しましょう。
また、小児がんなど長期的に治療が必要で、かつ、入院費用がかかることが想定される病気で入院する場合は「小児慢性特定疾病医療費助成制度」の対象とならないかを、病院のソーシャルワーカーに早い段階で相談しましょう。
それぞれの制度について解説します。
子の看護休暇とは
文字通り「子どもを看病するための休暇」です。育児・介護休業法により認められています。
具体的には事業主に申し出ることにより、1年度につき5日を限度として休暇を取得できます。
対象労働者 | 小学校就学前の子どもを養育する労働者 |
取得目的 | 病気やケガをした子の世話や、予防接種・健康診断の受診 |
取得日数 | 1年度につき5日 |
ただし
- 入社から6ヶ月経過していない
- 1週間の出勤日数が2日以下のパート・アルバイトである
など、一定の条件に当てはまる場合は、子の看護休暇を取得できないこともあるので、確認しましょう。
小児慢性特定疾病医療費助成制度とは
児童の健全育成を目的として、疾患の治療方法の確立と普及、患者家庭の医療費の負担軽減につながるよう、医療費の自己負担分を補助する制度のことです。
つまり、小児がんなど重い病気にかかった場合、所定の手続きを行っておけば、医療費の自己負担額が一定額以上に達した場合、それ以上は支払わなくても良くなると考えましょう。
また、入院中の食事代(食事療養費)についても自己負担額が減額されるため、経済的な負担がさらに和らぐ仕組みです。
なお、毎月の医療費の自己負担額の上限は、その家の収入(世帯所得)と子どもの病状に応じて決まります。
小児慢性特定疾病医療費助成制度を使う際の手続き
なお、小児慢性特定疾病医療費助成制度を使う際の手続きの流れは以下の通りです。
- 主治医(小児慢性特定疾病指定医)を受診し、医療意見書(診断書)を作成してもらう
- 医療意見書と必要書類を合わせて、都道府県(または指定都市・中核市)の窓口に申請する
- 都道府県(または指定都市・中核市)が行う審査で認定されたら、保護者に医療受給者証が交付される
- 指定医療機関を受診する際、医療受給者証を医療機関に提示した上で、治療を受ける
実際は、入院している病院で主治医に相談し、ソーシャルワーカーと連携を取りながら進めていくことになります。
また、手続きにあたって必要となる書類は以下の通りです。
- 小児慢性特定疾病医療費支給認定申請書
- 小児慢性特定疾病医療意見書(診断書)
- 住民票
- 市町村民税(非)課税証明書などの課税状況を確認できる書類
- 健康保険証の写し
- 医療意見書の研究利用についての同意書
子どもが入院する場合親は付き添うべきか
ここまでは「子どもが入院する場合、親が付き添うこと」を前提に話を進めてきました。
しかし、実際に親が付き添うことになると
- 24時間体制で病院にいなくてはいけない
- 付き添う人(介護者)のための食事や環境に問題がある
- 介護者が仕事を辞めざるを得ない
など、様々な問題が発生することも知っておきましょう。
法律上は不要
そもそも、子どもが入院する際の親の付き添いは、法律上は不要となっています。
健康保険法によって定められている「療養担当規則」においては、以下のように定められています。
第20条 医師である保険医の診療の具体的方針は、前12条の規定によるほか、次に掲げるところ
によるものとする。
(中略)
7 入院
ハ 保険医は、患者の負担により、患者に保険医療機関の従業者以外の者による看護を受けさせてはならない。
かみ砕いて説明すると「看護師や保育士など、病院のスタッフ以外に看護をさせてはいけない」ということです。
このくだりからも、そもそも法律上は「子どもが入院しても、親の付き添いは不要(むしろ、させてはいけない)」という決まりになっていることがわかるでしょう。
実際は付き添いを求められることが多い
しかし、実際は、子どもが入院する際は親(主に母親)の付き添いを求める医療機関は多く存在します。
主な理由として、以下の2点について解説しましょう。
理由1.人手が足りない
病院の入院病棟(正確には医療療養病床)には、入院する患者の数に応じた看護師を配置しなくてはいけません。
しかし、入院している人数が同じであっても、大人ばかり入院しているのと、子どもばかり入院しているのとでは、かかる手間も全く違います。
法律上、許容されるギリギリの人数の看護師だけで業務を進めている医療機関も決して珍しくありません。
慢性的に人手不足に陥っている以上、きめ細かい看護が難しいことから、主治医との相談の上で、親の付き添いを求めている医療機関が多いというのが実際のところでしょう。
理由2.子どもの精神的な安定を図りたい
子どもの健全な発育のためには、親の愛情はとても大事です。
また、入院するということは、子どもにとっては「普段住み慣れた家を離れて、全く勝手がわからないところで、何をされるかわからないまま日々を過ごす」という状況にも等しいです。
子どもの精神的なストレスは計り知れない以上、せめて親と長時間離れないようにすることで、精神的な安定を図ろうとすることには、一定の合理性はあります。
付き添いが過酷という事実
子どもが入院した際、実際に付き添うかどうかは、子どもや自身の状況を踏まえ、主治医とも話し合いをしながら総合的に決めることになります。
もちろん「子どもが心配だから」と、付き添いを喜んで引き受ける親がいても珍しくありません。
良いとか悪いとかではなく「その家庭にとって最もできる形」で進めるのが一番です。
しかし、付き添うことを決断した場合、家族にもかなりのストレスがかかることは覚えておきましょう。
寝不足、栄養が偏る、経済的に不安
病気を持つ子どもとその家族の支援を行っているNPO法人「キープ・ママ・スマイリング」が行った「子どもの入院への付き添い体験に関するアンケート」の結果からは、子どもの入院に伴う付き添いで、過酷な思いをしている親の姿が浮かび上がってきました。
結果を簡単にまとめると
- すべての付き添い経験者の57%が体調を崩した
- すべての付き添い経験者の78%が寝不足だった
- すべての付き添い経験者の80%が栄養不足だった
- すべての付き添い経験者の55%が経済的な不安を感じた
とのことです。
出典:独自調査【子どもの入院への付き添いに関するアンケート】結果のご報告 | | キープ・ママ・スマイリング
いざ、付き添いをすると
- 食事を摂る暇がなく、三食コンビニで済ませる
- 夜中に子どもが泣いたりしたらあやすため、慢性的に寝不足になる
- コインランドリー代や家族が病院に来る際のガソリン代など出費がかさむ
- 仕事を辞めざるを得なくなり、母子家庭なのに無収入になった
- 病院側担当者とのコミュニケーションが取れずに不満が貯まる
- 入院していない子ども(兄弟姉妹)に寂しい思いをさせる
など、問題が次々と発生します。
ただでさえ子どもの入院は、親にとって多大なストレスになるのに、さらに追い打ちをかける結果になりかねません。
法律を根拠にして拒否することも可能
既に触れた通り、子どもが入院した際の親の付き添いは、法律上は禁止されています。しかし、実際は「親の希望により」という体裁で、対応せざるを得ないケースも多いようです。
もし
- 母子家庭で、自分が働かないと無収入になってしまう
- 入院していない子どもの面倒も見なくてはいけない
- 自分自身も健康状態に不安を抱えている
など、24時間付き添えない事情がある場合は、まず相談しましょう。
「24時間体制での付き添いにならないよう調整する」「完全看護の病院への転院を視野にいれた紹介をする」など、前向きな対応をしてくれる病院もありますが、話し合いがうまくいかない場合は、先ほどの「療養担当規則」を根拠にして拒否するのも1つの方法です。
2週間程度の入院であれば、周囲の協力を得て時間をやりくりすることで何とか対応できるかもしれません。
しかし、長期間の入院になる場合は、単なるやりくりだけでは何ともならないため「自分たちのできる範囲で、無理なく」子どものケアにあたるほうが現実的でしょう。