実は日本はキャッシュレス途上国
日本は、先進国の中でもクレジットカードをはじめとしたキャッシュレス決済の利用率が低い国の1つです。2016年の時点のデータですが、日本におけるキャッシュレス決済の比率は19.9%に過ぎませんでした。
お隣の韓国が96.4%、イギリスが68.6%であることを考えると、これがいかに低い数字であるかわかるでしょう。
先進国の中で、日本より低い国はドイツ(15.6%)くらいしか見当たらないことを考えると、日本はまだまだキャッシュレス途上国なのかもしれません。
日本は今後、キャッシュレス決済比率を2025年までに4割程度、将来的には世界でもトップクラスの80%を目指すと表明していますが、これもどこまで達成できるのかは未知数でしょう。
医療機関でのキャッシュレス決済は厳しい道のり
中でも、なかなかキャッシュレス決済の導入が進まない分野の1つが医療機関です。日本医師会が2019年に行ったアンケートの結果によれば、キャッシュレス決済を導入していると答えた医療機関は、調査に参加した医療機関の13%に過ぎませんでした。
また、小さい医療機関(入院設備のないクリニックなど)であればあるほど、キャッシュレス決済が導入されていないのが現状です。
同調査では、医療機関別の導入状況についてもまとめられていましたが、この画像を見てもわかるように、比較的大規模な医療機関(100床以上の病院)では導入が進んでいるのに、無床診療所(入院設備がないクリニックなど)では導入がほぼ進んでいません。
導入が進んでいない理由は医療機関によってまちまちですが
- コストがかかる
- 導入するメリットがわからない
- 手続きが面倒
- 患者の利用の意向がない、わからない
- 情報管理が不十分な気がする
- ポイント等が付与されるため療担規則上の問題があると思う
- 導入に向けた環境整備が大変
- 誰に相談すれば良いかわからない
- 職員の作業が増える
- 入金の確認作業、追加請求や払戻の手続きが大変
などの理由が挙げられました。
なお、日本医師会でも、会員専用のキャッシュレスサービスを開始するなど、医療機関でのキャッシュレス決済の導入に向けた支援を行っています。
今後、キャッシュレス決済を導入する医療機関は増える可能性は大いにありますが、一方で
- 医師が高齢かつ地方に存在する医療機関であるため、導入しても使う人がいない
- そもそも院長自身がキャッシュレス化に反対である
など、キャッシュレスに対して強い抵抗感を示す医療機関も存在します。
加えて、キャッシュレス決済の中心的な決済手段であるクレジットカードを作る際には、与信審査が行われるため
- 無職であるため、安定継続した収入がない
- 過去に金融事故を起こした
などの理由で持てない人も一定数いるのが実情です。このような状況を鑑みると、キャッシュレス決済の導入は進みこそすれ、現金決済に100%置き換わることは(少なくとも現時点での日本では)当てはまらないでしょう。
病院ではクレジットカードを使うべき4つの理由
導入までにはいろいろと課題があるようですが、患者側からすればキャッシュレス決済を導入することには一定のメリットがあるのも事実です。
病院をはじめとした医療機関で使えるキャッシュレス決済の方法として、クレジットカードが挙げられますが、ここから先は患者側からみた具体的なメリットについて考えてみましょう。
理由1.医療費控除の際に計算がしやすくなる
理由の1つに挙げられるのは「医療費控除の際に計算がしやすくなること」です。医療費控除の手続きをする際には、「その医療機関へ行くために利用した公共交通機関の費用」も通院費として扱うことができます。
しかし、公共交通機関の費用は、タクシーなど一部の公共交通機関を除き領収書が出ないことがほとんどです。このため
- 「何月何日に医療機関に行ったのか」という記録
- クレジットカードの明細書
を一緒に保管しておくことで「確かにこの日に医療機関に行った」という事実が立証できます。
なお、普段から日記をつける習慣がある人ならともかく「いつ、医療機関に行ったのか」を記録しつづけるのは案外大変です。
医療機関での医師とのやり取りを録音するだけでなく、ライフログとしても利用できる「診察ノオト」を役立てましょう。
理由2.防犯上優れている
医療機関ならではの特殊な事情として「24時間365日開いていて、常に不特定多数の人が出入りしている」ことが挙げられます。
- 医師・看護師・薬剤師・臨床検査技師などの医療従事者
- 事務担当者、売店の店員
- 製薬会社の営業担当者
- 患者やその家族
など、通常の運営で出入りが考えられる人を挙げても、かなり多種多様な人が出入りするのがわかるはずです。
大規模な病院になればなるほど、出入りする人の数も増えるので、窃盗などのトラブルに遭う可能性は上がります。新型コロナウイルス感染症など、感染症が流行する時期になると面会制限が設けられるため出入りする人は減りますが、それでも窃盗の可能性をゼロにするのは極めて困難でしょう。
もちろん、警備員も巡回し対応に当たっていますが、ちょっとした隙を見て財布が盗まれてしまうことだって十分に考えられます。
このような背景を考えると、多額の現金を持ち歩くのは褒められたものではないでしょう。現金が盗難に遭った場合、戻ってくる可能性は限りなくゼロに近いためです。
一方、クレジットカードであれば仮に盗難に遭ったとしても、電話をかけてすぐに利用停止してもらえばトラブルは最小限に抑えられます。防犯面では圧倒的にクレジットカードの方が優れているのです。
理由3.会計にかかる時間が短い
クレジットカードをはじめとしたキャッシュレス決済と現金での決済を比べた場合、明らかな差が見られる項目として「決済完了までにかかる時間」が挙げられます。
クレジットカード大手・JCBが行った実証実験によれば 、レジでの会計時における決済完了までの時間は
- キャッシュレス決済:12秒
- 現金:28秒
だったとのことです。
出典:決済速度に関する実証実験結果 | JCB グローバルサイト
なお、キャッシュレス決済ができる医療機関の場合、診療費用を支払う際は「支払機」と呼ばれる専門端末を使うのが主流になっています。この場合でも、現金よりキャッシュレス決済で進めた方が、支払の完了までに要する時間は短いでしょう。
独自のシステムを導入する医療機関もある
医療機関によっては所定のクレジットカードを使い、事前に手続きを済ませることで診察後の料金計算や会計をしないで帰れるシステムを導入していることがあります。
例えば、慶應義塾大学病院の場合「KEIO MED EXPRESS CARD」(ライフカードとの提携カード)を使うことで、料金計算や会計が不要になる仕組みです。
自分や家族のかかりつけの病院にこのようなサービスが導入されている場合は、待ち時間の短縮のためにも利用を検討してみましょう。
理由4.衛生上優れている
病院やクリニックなどの医療機関に訪れる人の中には、病気の影響で免疫力が健康な人より著しく低い人もかなりいます。
健康な人であれば大した影響がない雑菌であっても、免疫力が低い人にとっては命取りになりうることだって往々にしてあるのです。
医療機関に足を運ぶ際には、うがい、手洗い、アルコール消毒などの基本的な衛生管理を行うのはもはやマナーと言っても良いでしょう。
さらに気を遣うなら、雑菌を持ち込まない、広げない工夫も必要です。「現金は意外と汚い」という事実にも目を向けてみましょう。
そもそも、紙幣や硬貨は様々な人が触るものであるため、どんな雑菌がついているのか全く分かりません。自分がどんなに気を付けて衛生対策をしていたとしても、見知らぬ人が触った紙幣や硬貨についてはどうしようもない部分があります。
食中毒や皮膚感染症を引き起こす雑菌がついていた場合、現金を触った手を洗わずにお手洗いを使ったり、待合室のソファーに腰をかけたことが原因で雑菌を広げてしまうことも考えられます。
さらに重大な事態として、大規模な院内感染が引き起こされ、入院患者や医療従事者を中心とした健康被害が発生することだってありうるのです。
手洗いやうがいなど、基本的な衛生対策も有効ですが、さらに有効な対策を求めるなら、クレジットカードを使い、現金を触る機会を少しでも減らすほうが良いでしょう。