救急安心センター事業とは
アメリカをはじめとした諸外国では、救急車の出動にも料金がかかります。そのため、出動要請を行うかどうかも含め、利用に対しては慎重であるのが現状です。
一方、日本では救急車の出動要請をしたとしても、それだけでは料金はかかりません。このため
- 「タクシーだとお金がかかるから」「家に車がないから」「今日、かかりつけの病院に行きたいから」とタクシー代わりに救急車を 呼ぼうとする
- 緊急性は高くないものの「何となく体調が悪い」という理由だけで救急車を呼ぼうとする
と、諸外国では信じられないような使い方もされています。
このような使い方をされたのでは、本当に緊急性が高い患者が適切な治療を受けられなくなるので、好ましくありません。
それでも「調子が悪いけど、救急車を呼んだ方が良いのか、様子見で良いのか」は、自分や家族だけでは判断しかねる部分もあります。
そこで利用してほしいのが「救急安心センター事業」です。
「どうすれば良いかわからない」ときに相談できる
救急センター事業とは、消防庁および地方公共団体が共同で行っている事業の1つです。自身や家族が体調を崩した際
- しばらく様子を見ても良いのか
- 医療機関が開院する時間帯になったら診察・治療を受ければ良いのか
- すぐにでも救急搬送をした方が良いのか
については、常に正確な判断を下せるとは限りません。自分や家族は大したことがないと思っていたとしても実は重篤な状態で、すぐにでも治療を受けないと手遅れだったという状況も考えられます。
救急安心センター事業では、専用の電話番号にかけると医師・看護師・相談員が相談に乗ってくれ、その内容を踏まえて
- 緊急性
- 応急手当の方法
- 受診手段
- 適切な医療機関
について助言をしてくれます。加えて、なるべく早い医療機関の受診が必要な場合は医療機関を紹介してくれたり、より緊急性が高い場合は救急車の出動要請まで行ってくれるのです。
自分や家族の意見だけではなく「医学的に何が本当に必要か」を踏まえたアドバイスをしてくれるのは、非常に心強いでしょう。
救急安心センター事業を利用するには?
1.「#7119」に電話をかける
実際に救急安心センター事業を利用する際の流れについて解説しましょう。
対象の地域内に住んでいるのであれば「#7119」に電話をしてください。
なお、詳しくは後述しますが地方自治体によっては違った番号で同様の事業を行っているケースもあります。自分が住んでいる地域の場合
- 事業自体が実施されているのか
- 番号は「#7119」なのかそれ以外か
は一度確認しておきましょう。
2.医師・看護師・相談員に状況を説明する
電話がつながったら、担当の医師・看護師・相談員に状況を説明しましょう。その際、気を付けるべきなのは情報を整理して伝えることです。
ここ数日の体調はどうだったか
持病などで薬を飲んでいないか
過去に掛かった病気はないか
本人の様子はどんな感じか
について細かいヒアリングが行われるため、落ち着いて冷静に答えましょう。
なお、落ち着いて冷静に答えるためには、普段から情報を整理するのが大事です。自分や家族が受けた診察の様子を「診察ノオト」で録音して聞き返し、時間があるときにメモにまとめておくと良いでしょう。
救急安心センター事業のメリット
ここで、救急安心センター事業を利用することについてのメリットを考えてみましょう。
1.不要不急の救急車の出動がなくなる
メリットの1つに「不要不急の救急車の出動を防げる」ことが挙げられます。東京消防庁の統計によれば、2019年の救急車の手動頻度は38秒に1回、救急車が出動してから現場に到着するまでの時間は平均で6分35秒だったとのことです。
「大体7分後に到着するなら」と思うかもしれませんが、病状が深刻な場合は1秒の遅れであっても生死を左右することがあります。
わかりやすい例が心配停止状態です。心肺停止後、8分経過すると救命率は約20%まで低下してしまいます。
しかし、この間に心臓マッサージや人工呼吸、AEDによる処置を行うことで救命率は50%にまで回復させられるのです。
出典:心停止からの時間経過と救命率の関係 中央区ホームページ
この事実からも「救急車は早く到着するに越したことはない」のがわかるでしょう。
そして、不要不急の救急車の出動がなくなれば、より早い時間で救急車が現場に到着し、本当に必要な治療を適切なタイミングで受けられる可能性が高まります。
2.本当に必要な場合は救急車の出動要請をしてくれる
2つ目のメリットは「本当に必要な場合は救急車の出動要請をしてくれる」ことです。
たとえ、自分や家族は「まあ、救急車を呼ぶほどじゃないよね」と思っていたとしても、医師・看護師など専門的な知見を持った人からすれば「今すぐにでも呼ばないと」というほどの重篤な状態であるのは往々にして起こり得ます。
もちろん、救急安心センター事業では医師・看護師が本当に必要と判断した場合は、救急車の出動要請やその時点で診療を受け付けてくれる医療機関の紹介をしてくれるので、スムーズに治療を受けることが可能です。
救急安心センター事業のデメリット
一方、救急安心センター事業にはデメリットもあります。
1.すべての都道府県で実施されているわけではない
1つ目のデメリットは「すべての都道府県で実施されているわけではない」ことです。2021年10月1日現在、実施されているのは以下の都道府県および地域です。
- 宮城県
- 茨城県
- 埼玉県
- 東京都
- 新潟県
- 京都府
- 大阪府内
- 奈良県
- 鳥取県
- 山口県
- 徳島県
- 福岡県
- 札幌市周辺
- 横浜市
- 岐阜市周辺
- 神戸市周辺
- 田辺市周辺
- 広島市周辺
また、救急安心センター事業以外の名称で、同様の事業を運営している地方自治体は以下の通りです。
都道府県名 | 事業名 | 電話番号 |
---|---|---|
山形県 | 山形県救急電話相談 | #8500 |
栃木県 | 救急電話相談窓口 | #7111 |
千葉県 | 救急安心電話相談 | #7009 |
香川県 | 一般向け救急電話相談 | #7899 |
熊本県 | 熊本県夜間安心医療電話相談事業 | #7400 |
救急安心センター事業および同様の事業を行っている都道府県および地域の人口カバー率は、47.0%とのことでした。
出典:救急救助 #7119(救急安心センター事業)関連情報 | 救急車の適正利用 | 総務省消防庁
いずれにしても、すべての都道府県で実施されているわけではない以上、自分が住んでいる地域が対象外であることだって考えられます。
「日本に住んでいるすべての人が使えるわけではない」点は頭にとどめておきましょう。
2.対応できない相談もある
2つ目のデメリットとして「対応できない相談もある」ことが挙げられます。
救急安心センター事業および類似事業の趣旨はあくまで「救急車の適正利用」です。このため、緊急性が低い質問と考えられる
- 現在治療中の病気の治療方針
- 医薬品の使用方法
- 介護・健康・育児
に関する相談には対応できません。加えて、精神科領域の質問にも対応できないとされています。
理由は明言されていませんが、考えられるのは
- 精神障害のある救急患者に対応できる医師・看護師、救急センターの絶対数が少ない
- 精神障害の影響により治療中に暴れたり、スタッフに暴言を吐いたりする患者もいるので受け入れに消極的んあ医療機関が多い
- 本人に病識がなく、たとえ医療機関や救急搬送の提案をしたとしても応じてくれないことがある
- 激しい暴力行為や自傷行為があった場合は、精神保健福祉法第23条の規定に基づく警察官通報を受理し、措置入院の手続きを進めなくてはいけない
などの「精神科独自の事情」です。
通常の救急医療の枠組みでは対応できない課題も多いため、救急安心センター事業および類似事業では「精神科に関連する相談は対応できない」ということが明言されているのかもしれません。
精神科関連の相談は「夜間休日精神科救急医療機関案内窓口」を使おう
なお
- 自殺念慮が止まらない
- 自傷行為を繰り返す
- 医薬品の過剰服用(オーバードーズ)をした
など、精神科領域で緊急性が高い問題が生じた場合は、まずは主治医に連絡がつくようなら連絡し、どうすれば良いかを相談しましょう。
加えて、主治医にどうしても相談ができない場合は、各都道府県に設置されている「夜間休日精神科救急医療機関案内窓口」を利用するのも1つの手段です。
例えば、埼玉県の場合は「精神科救急情報センター」がその役割を担っています。
また、精神疾患を抱える家族がいる場合は、普段から
- 主治医に相談し、緊急時の対応についてすり合わせる
- 住まいを管轄する都道府県・市区町村、保健所、公的機関(精神保健福祉センターなど)に相談しておく
など「いつ何が行っても迅速に動ける」体制を整えておきましょう。