保険証がなくても診察は受けられる
日本では「国民皆保険」といって、原則として日本に住んでいる人(住民登録がある人)であれば、全員が何らかの公的医療保険に入らなくてはいけません。そして、ケガや病気の治療のために医療機関を受診する場合は、公的医療保険に加入していることを証明する保険証を提示し、診察・治療を受けることになります。
いわば「病院に行く = 保険証を出す」というのがほとんどの人にとっての共通認識であると言っても良いでしょう。このような背景を鑑みると、思わず「保険証がないと、医療機関に行ってはいけないのでは?」と思ってしまうかもしれません。
しかし、これは間違った認識です。
結論から言うと「たまたま保険証を持っていなかった」「転職したてで新しい保険証が届くのを待っている」などの理由で、保険証がない状態で医療機関を受診すること自体は問題ありません。
「実は保険証を忘れちゃって」「転職したてで届いていなくて」など、理由を明確に述べれば大丈夫です。
ただしかかった費用は全額自己負担になる
ただし、注意すべき点が1つあります。それは「かかった費用は全額自己負担になる」ということです。
そもそも、公的医療保険の枠内で診察を受ける場合、窓口で支払うのは実際にかかった費用の一部で、残りは健康保険組合から医療機関に支払われることになります。しかし、保険証がなければどこの健康保険組合に加入しているのか客観的な証拠がありません。
不正給付のリスクを避けるためにも、保険証の提示がない状態で診察・治療を受けた場合は、一度かかった費用を全額自己負担するのは避けられないのです。
後日療養費として一部が払い戻される
もちろん、ただ単に保険証を持っていなかった人に対してまで、不正給付の疑いをかける必要もないでしょう。
仮に、病院やクリニックなどの医療機関を受診する際にたまたま保険証を持っていなかったとしても、加入している健康保険組合に対して手続きを行えば、後日療養費として自分で立て替えた医療費の一部が払い戻されます。
払い戻しが受けられるのは「公的医療保険の範囲内での診察費」
また、療養費として払い戻されるのは、あくまで公的医療保険の範囲内での診療費のみです。自由診療扱いの診察・治療を受けた場合は、もともとが10割負担となるため、療養費としての払戻しもありません。
保険証が届く前に医療機関を受診したい場合は?
なお、転職したなどの理由で加入する健康保険組合が変わった場合、新しい保険証が届くまでに2週間から1ヶ月程度かかることは往々にして考えられます。その間、保険証がない状態で過ごすことになるため、療養費の手続きが面倒臭いと思うなら、保険証が届くまで医療機関を受診することは避けた方が良いでしょう。
ただし、中には「明日にでも病院に行かないとまずい」というほど体調を崩すことだってあり得ます。この場合は、ためらわずに医療機関を受診しましょう。
その際にあると良いのがのが、日本年金機構が発行する「健康保険被保険者資格証明書」です。これを医療機関の窓口で提示すれば、公的健康保険に加入していることの証明になるため、一時的に立て替える必要もなくなります。
なお、健康保険被保険者資格証明書の取得手続きは、事業主または被保険者が行います。実際は会社の担当部署(総務、人事など)に相談し進めてもらうことになりますが、自分でも進めることが可能です。
「もしかしたら、保険証がない間に病院に行く羽目になるかも」という人は、済ませておきましょう。
手続きに必要なのは
- 健康保険被保険者資格証明書交付申請書
- 本人確認書類
の2つです。
このうち、健康保険被保険者資格証明書交付申請書は日本年金機構のWebページからダウンロードできます。窓口にも備え付けてあるので「教わりながら書きたい」という人は、持たずに行きましょう。
また、身分証明書は以下のものが使用できます。
1つで足りるもの | 2つ以上組み合わせるもの |
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個人番号カード 運転免許証(運転経歴証明書) 住民基本台帳カード(写真付きのもの) 旅券(パスポート) 身体障害者手帳 精神障害者保健福祉手帳 療育手帳 船員手帳 海技免状 小型船舶操縦免許証 猟銃・空気銃所持許可証 戦傷病者手帳 宅地建物取引士証 電気工事士免状 無線従事者免許証 認定電気工事従事者認定証 特種電気工事資格者認定証 耐空検査員の証 航空従事者技能証明書 運航管理者技能検定合格証明書 動力車操縦者運転免許証 教習資格認定証 検定合格証(警備員に関する検定の合格証) 特別永住者証明書 在留カード | 被保険者証(国民健康保険、健康保険、船員保険、後期高齢者医療、介護保険、共済組合) 児童扶養手当証書、特別児童手当証書 公的年金(企業年金、基金を除く)の年金証書または恩給証書 年金手帳 改定通知書(機構が交付した通知書) 住民基本台帳カード(写真付きでないもの) 金融機関またはゆうちょ銀行の預(貯)金通帳、キャッシュカード、クレジットカード 印鑑登録証明書 学生証(写真付きのもの) 国、地方公共団体または法人が発行した身分証明書(写真付きのもの) 国または地方公共団体が発行した資格証明書(写真付きのもので左記の書類を除く) |
参照:従業員に健康保険被保険者資格証明書を交付するときの手続き|日本年金機構
保険証を持たずに避難する羽目になったら?
また、地震や洪水などの大災害が起きた場合、着の身着のまま避難する羽目になることだって考えられます。保険証を持って出られればそれが理想ですが、うまくいくとは限りません。
この場合は
- 氏名
- 生年月日
- 連絡先
- 加入している保険組合がわかる情報
を伝えることで、保険証がなくても、保険診療を受けることができます。
- 非常用持出袋に保険証のコピーを入れておく
- スマートフォンのカメラで保険証の写真を撮影しておく
など、何らかの形で情報がわかるようにしておくと良いでしょう。
療養費を精算する際の流れ
1.明細書と領収書を準備する
ここから先は、療養費を請求する際の基本的な流れについて説明しましょう。なお、細かい部分については、加入している健康保険組合によって異なるので、事前に確認するようにしてください。
最初にやるべきことは、医療機関で診察を受けた際の明細書や領収書を準備することです。これらの書類は、今回紹介する療養費の請求も含め、医療費控除など様々な手続きで使用する書類なので、捨てずにきちんと保管しておきましょう。
また、自身や家族の健康管理という意味では、医療機関で診察や治療を受けた記録をとるのも役に立ちます。手書きでメモをとったり、パソコンにまとめたりなどの方法でも良いですが、おすすめなのが「音声で残す」ことです。
病気や薬の名前などは、医師や看護師でもなければ普段はほぼ耳にしないものも多いため、正確にメモを取れないことだって考えられます。後々、正しい情報を調べるためにも、音声で残しておけばわかりやすいでしょう。
なお、アプリ「診察ノオト」でも音声で残すことが可能です。スマホ上で動作するので、新たにボイスレコーダーを購入する必要はありません。
2.必要書類を提出する
明細書や領収書が用意できたら、健康保険組合が定める書類に記入して提出しましょう。なお、協会けんぽの場合は「健康保険療養費支給申請書(立替払等)」を提出します。
協会けんぽの公式Webサイトからダウンロードして利用可能です。郵送もしくは協会けんぽ支部の窓口に出向いて提出し、内容の確認を経て問題がなければ、自己負担分を差し引いた金額が返金されます。
また、国民健康保険や組合健保に加入している場合は、書類の名前こそ違いますが「書類を提出し、問題がなければ返金される」という流れは変わりありません。
医療機関に直接出向いてもOK
保険証がない状態で診察・治療を受けた医療機関が自宅・会社の近所にある場合は、直接出向いてもかまいません。
- 保険証がない状態で診察・治療を受けたときの明細書や領収書
- 保険証
を提示すれば、その場で返金手続きをしてくれます。
なお、医療機関での返金を希望する際は「今月中にいらしてくだされば」という条件を付けられることが多くなっています。
このような条件を付けられる理由として考えられるのは、医療機関が行う事務作業との関連です。医療機関では、その月に訪れた患者に対して行った治療をすべて取りまとめて請求を作り、社会保険診療報酬支払基金を通じて健康保険組合に請求します。
仮に、返金をするタイミングが月をまたいでしまうと、計算が非常に煩雑になってしまうため、事務処理の軽減の観点からこのように言われることが多いと考えましょう。
月末に保険証なしで医療機関を受診した場合は、いっそ「健康保険組合とやりとりするから大丈夫です」と言ってあげた方がスマートかもしれません。