病院を誤診で訴えることはできる?医療ミスが疑われる際の手続きの流れ

病院を誤診で訴えること自体は可能

医師の診察・治療を受けた人のすべてが、また元通りに元気になって、日常生活を幸せに送ることができれば、こんなに幸せなことはありません。

しかし、中には万が一のことが起きてしまったり、日常生活に到底復帰できない状態になってしまったりすることもあります。もちろん

  • 試せる治療法はすべて試し、そのプロセスには何の問題もなかった
  • 「いつ、どの治療法をどのように行うのか」について、医師から丁寧な説明があった

のなら、患者自身や家族も納得がいくでしょう。

しかし

  • 治療法について質問しても、医師からは要領を得ない返答しか得られなかった
  • 自分や家族が別の治療法を検討してもらうよう頼んでも、医師に「自分のやり方が正しいから」と一蹴された

など、医師に対する不信感があった場合は「そもそも、医師が誤診を繰り返していただけでは?」と思うのも無理はありません。

その場合、医師及び所属している病院・クリニック(厳密には、医療法人・社会福祉法人・学校法人等、病院やクリニックの開設者)を医療ミス = 医療過誤で訴えることを検討する人もいるでしょう。

実際、このようなことは可能なのでしょうか?

しかし、いきなり訴えることはできない

結論から言うと可能です。ただし、注意してほしいのは「いきなり訴える = 提訴する」ことはできないという点です。

詳しくは後述しますが、医療過誤を理由に損害賠償請求をできるかどうかは、弁護士に調査を依頼し、様々な資料や証言を入手してみないとわかりません。

また、争うことにしたとしても、実際は「当事者同士で話し合い(示談) → 裁判所で調停委員と裁判官立ち会いで話し合い(調停) → 裁判を起こす(提訴)」と、1つ1つ段階を踏んでいかないといけません。

医療ミスが疑われる際の手続きの流れ

いずれにしても、医療ミスが疑われ、そのことを理由に医師や病院を相手取って裁判を起こす場合は、まずは弁護士に相談しましょう。

このことも含め、一般的な流れを解説します。

ステップ1.弁護士に相談する

一口に弁護士と言っても、それぞれに得意分野があります。医療ミス = 医療過誤案件を扱うことができるかを基準に、相談する弁護士を選びましょう。

探し方ですが

  • 地域の弁護士会に相談する
  • Web上で「医療過誤 弁護士」などのキーワードで検索する

などが考えられます。

  • 家族や親族、友人・知人に弁護士・公認会計士・司法書士・税理士などの「士業」がいる
  • 仕事上で「士業」の人と付き合いがある

場合は、相談した上で、対応できそうな弁護士を紹介してもらうのも1つの手段です。

医療事故情報センターに連絡するのもあり

また、自力で探すのが難しい場合は「医療事故情報センター」に連絡をしてみるのをおすすめします。これは、医療事故被害者の代理人として活動する全国各地の弁護士が正会員となって構成される任意団体です。

電話連絡(052-951-1731)をすれば、医療事故について相談できる弁護士の一覧表(全国相談窓口一覧表)を送ってくれるので、それをもとに探してみましょう。

参照:医療事故情報センター「各地相談窓口」

実際に依頼をするかは相談をしてから

相談する弁護士の目星がついたら、実際に相談しましょう。

相談料は弁護士によって違いますが、30分5,000円 ~ 10,000円程度が相場です。また、初回相談は無料という弁護士も多くなっています。

相談が終わったあと、弁護士から

  • 現在考えられる争点
  • 証拠資料の収集の仕方(証拠保全の要否)
  • 調査方法
  • 調査にかかる費用の見積もり

などをまとめたものが、文書(メールで送られてくるケースもあり)で送られてくるはずです。これを見た上で、弁護士に調査を依頼するかどうかを決めることになります。

ステップ2.調査を依頼する

弁護士に調査を依頼する場合は、委任契約書を取り交わさなくてはいけません。その際

  • 各種委任状
  • 戸籍謄本
  • 身分証明書の写し
  • 実印
  • その他、弁護士から指示があったもの

が必要になるので、もれなく用意しましょう。

手続きが正常に完了したら、弁護士が受任したことになります。

その後は、弁護士が診療記録すべてと関係書類を入手し、収集した資料を医学的・法的な見地から検討することになります。

もし、医師からの説明を受けた際の音声データがあれば、資料の一部として提供しましょう。普段は「診察ノオト」でつけていた何気ない記録でも、十分に役に立ちます。

なお、診療記録については、弁護士が病院・クリニックなどの医療機関に対し、開示を請求します。

近年は、個人情報保護法との兼ね合いもあるため、以前に比べると診療記録の開示に応じてくれる医療機関も多くなりましたが、スムーズに行くとは限りません。

その場合、弁護士の判断で裁判所に対して証拠保全の申し立てを行うことがあります。

証拠保全とは

証拠保全とは

あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情がある場合に、訴訟における本来の証拠調べの時期に先がけて、裁判所がその証拠の取調べを行い、その結果を保全する手続

のことです(民事訴訟法234条)。

つまり、裁判所に対して申し立てを行い、受理されると、次の流れで手続きが進んでいきます。

  • 医療機関に対し、抜き打ちで裁判所の執行官が赴いて決定を渡す(送達)
  • 送達から30分~1時間後に、裁判所(裁判官)が医療機関を訪れてカルテ等の保全を行う

証拠保全をすることで、医療機関がカルテ等の改ざんを行うのは極めて困難になるのです。

ステップ3.調査の結果が報告される

具体的な時間は個々のケースによって異なりますが、弁護士に調査を依頼してから、結果の報告が受けられるまで1年程度かかります。

調査した結果、医師や病院に損害賠償請求をするのは困難と判断された場合は、この時点で手続きが終わります。

ステップ4.交渉に進む

弁護士と再度委任契約を結び、相手方の医師・病院に対して損害賠償請求を行うための交渉が始まります。

まず、損害賠償を求める申入書(詳細な理由を付したもの)を相手方に送付するところから始めるのが一般的です。これも、個々のケースによって差はありますが、おおむね3 ~ 6カ月程度で相手方から回答が返ってきます。

この回答を受けて、当事者間で話し合いをし、折り合いが付けば解決です。

ステップ5.民事調停に進む

しかし、回答が全く戻ってこなかったり、折り合いがつかない場合は、裁判所に申し立てをして、民事調停に進みます。

民事調停と裁判の違いって?

なお、民事調停は裁判とは全く違うものです。

裁判のように勝ち負け(勝訴・敗訴)を決めるものではなく、裁判官と調停委員が同席した上で話し合いをし、両者の落としどころを探る手続きと考えましょう。

出典:民事調停 | 裁判所

ここで、折り合いが付けば、調停成立という形で解決しますが、つかない場合は調停不成立として、訴訟に進むことになります。

ステップ6.訴訟に進む

ここまで来て、ようやく「病院を誤診で訴える」段階に至るのです。

さらに費用や時間がかかるので、弁護士からの説明を受けた上で、家族・親族で納得したのちに、改めて委任契約を結び、手続きを進めていきます。

口頭弁論とは

なお、裁判においては「口頭弁論」が必要に応じて行われます。

簡単に言うと「訴えた側(原告)と訴えられた側(被告)の言い分を裁判官が聞く」ことですが、医療過誤の訴訟の場合、患者本人や家族が証人として出廷(法廷に出向くこと)し、証言をしなくてはいけません。

「何をどうするのがゴールか」を決めておく

このように、一口に「病院を誤診で訴える」と言っても、実際はいきなり訴えることはできない上に、費用も時間もかかります。

また、実際に訴訟に進んだ場合患者本人や家族が証人として出廷(法廷に出向くこと)し、証言をしますが、かなりのストレスがかかるはずです。

勝てる可能性は低いけど、調べることに意義はある

さらに、医療過誤の訴訟を提起したとしても、勝訴する可能性は低いことも覚えておきましょう。

裁判所が毎年発表している「司法統計」によれば、日本全国の地方裁判所に持ち込まれた医療過誤に関する事件の数は令和2(2020)年度で647件ありました。

このうち、裁判で原告が勝訴した(認容された)のは43件にすぎません。割合にすると約6.6%です。

出典:裁判所「司法統計 民事・行政 令和2年度 第19表 第一審通常訴訟既済事件数―事件の種類及び終局区分別
―全地方裁判所」

医療過誤に関する訴訟においては、訴えた側が勝つのはかなり厳しいといっても良いでしょう。

  • 「一体どのような経緯で、治療が行われたのか」がわかれば良い
  • 目に見える償いが欲しいので、損害賠償という形で受け取りたい
  • 例え時間がかかっても良いから、裁判で「どちらか正しかったのか」について決着をつけたい

など、目指す状況 はそれぞれ異なっているはずです。

大事なのは、自分たちが目指す状況を達成することです。「何がどうなれば、自分たちにとってはゴールになるのか」を話し合った上で、手続きを進めましょう。

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