病院にいる医療ソーシャルワーカーって何する人?
病院では医師・看護師をはじめ、様々な立場の人が働いています。その中の職種の1つに、ソーシャルワーカーがありますが、この人たちが何をするのかまで正確に理解している人は決して多くないかもしれません。
しかし、この人たちが何をするのか知っておけば、自分や家族が入院した際に、強い味方になってくれるでしょう。今回は、病院にいるソーシャルワーカー = 医療ソーシャルワーカーについて解説しましょう。
患者側に立ち問題解決のために働いてくれる
医療ソーシャルワーカー(MSW)を一言でまとめると
患者や家族の不安をできるだけ軽減し、安心して治療が受けられるよう、医師・看護師などの専門職と連携し、問題解決への援助を行う社会福祉専門職
といったところです。
もっと簡単にすると「患者側に立ち問題解決のために働いてくれる人」と言ったところでしょう。
案外歴史は古いです
医療ソーシャルワーカーの起源は、1895年のイギリスにまでさかのぼります。同年、ロンドンの王立療養病院に初めてソーシャルワーカーが配置されました。その後、アメリカなど世界各国に同様の制度が広がっていきます。
日本でも、1929年に聖路加国際病院にソーシャルワーカーが配置されました。それでも、戦前は医療技術のあり方、人権思想の違い、情勢不安定などの事情もあり、なかなか普及しなかったのです。
しかし、戦後は結核のまん延が深刻な社会問題となったことから、保健所や国立療養所・病院にソーシャルワーカーが設置されるようになりました。貧困層や結核患者への入院援助、医療費問題の解決などを主に担っていましたが、徐々に民間病院にも活動が広がっていったのです。
1953年には同業者団体として日本医療社会福祉協会(現在の公益社団法人日本医療ソーシャルワーカー協会)が設立されています。
今では、ソーシャルワーカーは医療機関において患者側に立ち、問題解決を目指す専門職として重要な役割を果たしているのです。
社会福祉士・精神保健福祉士が担うことが多い
実は、ソーシャルワーカーを名乗るのに特別な資格は必要ありません。しかし、医療現場における患者および家族の相談に乗るために、必要十分な知識を有していることが前提となります。
そのため、実際は社会福祉士もしくは精神保健福祉士の有資格者が、ソーシャルワーカーとして勤務することが多くなっています。新たにソーシャルワーカーを目指す場合も、この2つのうちどちらかの資格を持っていることが最低限の条件になるでしょう。
医療ソーシャルワーカーの果たす役割
医療機関に勤務するソーシャルワーカー = 医療ソーシャルワーカー(MSW)の業務の範囲は、業務指針で以下のように定められています。
- 療養中の心理的・社会的問題の解決、調整援助
- 退院援助
- 社会復帰援助
- 受診・受療援助
- 経済的問題の解決、調整援助
- 地域活動
言い換えると、これらの6つのいずれかに当てはまる患者や家族の悩みを解決するための計画を立案・実行するのが医療ソーシャルワーカー(MSW)の大きな役割と言って良いでしょう。
医療ソーシャルワーカーに相談できること
医療ソーシャルワーカーに相談できることは、思っているよりもかなり広範囲です。診察・治療に関することを含め、何を話しても構わないのですが、相談できることの具体例を紹介しましょう。
1.治療を受けるにあたっての悩み
- 自分の病気では、どんな治療を行うのか
- 入院生活はどれくらいの期間になりそうなのか
- 病気になった事実をどう受け止めれば良いのか
など、患者本人が抱える基本的な悩みから
- 家族として、どう患者本人に接すれば良いのか
- 治療を受けることで、本人や家族の生活にどんな影響があるのか
- 共倒れにならないようにはどうすれば良いか
など、家族が抱える悩みにまで、幅広く相談に乗ってくれます。
また
- 医師・看護師との相性が合わない
- 医師・看護師の対応に思うところがある
- 診察・治療で嫌な目にあった
など、病院のスタッフとの信頼関係に疑問が生じた場合も、医療ソーシャルワーカーに相談してみましょう。医師・看護師からも話を聞きつつ、患者側に立つ専門職として解決の糸口を探ってくれるはずです。
医療ソーシャルワーカーが職務上果たすべき役割の1つに「権利擁護的役割」があります。
つまり、患者の基本的な人権を尊重するために動くのが、医療ソーシャルワーカーとして働く上での重要な役割として位置づけられているのです。
2.退院後のこと
がんの化学療法が入院から通院にシフトしていることからもわかるように、日本における医療機関への平均入院日数は年々減少しつつあります。
一般病床の場合、平成31年2月時点での平均在院日数は16.4日でした。つまり、一般的な病気やケガであれば、3週間もたたずに退院する人がほとんどです。
また、ずっと同じ病院に入院できるとは限らない点にも注意しましょう。
医療機関においては機能分化が進んでいます。つまり、入院1つとっても、急性期・回復期・療養期と分け、それに見合った病床を持つ病院に入院するシステムができがっているのです。
出典:地域医療支援病院と医療連携|筑波メディカルセンター病院
このように、病気の治療を続けていく中でも「退院後のこと」は常に考えなくてはいけません。
- 退院後はどのような点に気を付けて生活すれば良いのか
- 自宅に戻る際に準備しておくべきことはあるか
- 転院するならどこの病院にすれば良いか
- 在宅医療を利用するにはどうすれば良いか
など、退院の話が出てきたときに遭遇する悩みにも、ソーシャルワーカは真摯に答えてくれるでしょう。
3.仕事や学校のこと
学生や働き盛りのときに病気・ケガで長期間の療養が必要になった場合
- 学校に復学できるのか
- 仕事に復帰できるのか
- 学校や職場にはどう伝えれば良いか
- 周囲にはどういう配慮をしてもらえば良いか
がまったくわからず、不安になるかもしれません。そういうときも、ソーシャルワーカーに相談しましょう。
例えば、学校に復帰する場合は
- 担当者(学生部の職員、担任教諭、養護教諭)などを交えた話し合い
- 校舎の改修の必要性
- オンライン授業への振り替え、保健室登校
など、具体的に講じるのが望ましい配慮についても一緒に考えてくれます。また、会社に復帰する場合も
- 産業医、上長(直属の上司)、人事担当者などを交えた話し合い
- 必要な配慮の有無
- 短時間勤務制度など、利用できそうな社内制度の確認・整備
などについて、相談できるでしょう。
4.お金に関すること
日本は国民皆保険といって、原則として全員が何らかの公的健康保険に加入しなくてはいけません。また、仮に医療費が高額になったとしても、高額療養費制度があるため、毎月の支出が青天井になることは基本的にありません。
しかし、病気やケガで長期間療養していると、どうしてもお金の不安はつきまといます。
- 働けなくなったため、収入が入ってこない
- 医療費の支払いが多くて不安
- 家族に経済的な負担をかけていると不安になる
など、お金に関する悩みがあれば、ソーシャルワーカーに相談しましょう。
利用できそうな公的医療制度など、経済的な負担を軽減するための方法について調べ、手続きのサポートもしてくれます。
5.治療に関する情報提供
病気・ケガをした際に行う治療は、相応の知識がないと、一体何のために行うのかわかりにくい部分もあります。
本来、治療に関する情報は、医師・看護師などの医療関係者に聞くのが望ましいですが、ソーシャルワーカーに相談することも可能です。
- 製薬会社が配布しているリーフレットの手配
- がん診療連携拠点病院など高度な治療が受けられる医療機関の紹介
- 手術、化学療法、放射線治療などによる外見の変化の対処
など、治療に関連した「医師・看護師には聞けないけど、知っておきたいこと」があれば相談してみましょう。
6.患者との過ごし方や死後のことに関する相談
これは、どちらかと言えば患者本人というより、家族が頼るべきことです。病気・ケガの種類にもよりますが、状態が思わしくない場合は、日常生活にも大きな制限が加わります。
また、さらに深刻なケースではホスピスへの転院など、終末期を見据えた計画も練らないといけないでしょう。さらに、万が一のことが起きてしまった後は、家族は深い悲しみに襲われるはずです。
このように、終末期・死去後の家族に対する精神的なケアも、ソーシャルワーカーが担っています。
- 日々弱っていく家族を見ていて辛い
- 患者が旅行に行きたがっているけど行かせて良いか
- 患者に万が一があった時の葬儀について聞いてみて良いか
- 臓器移植、病理解剖の意向を確かめて良いか
- (患者の死後)治療経過を振り返りたい
- お世話になったスタッフにお礼を言いたい
- 今後の生活や死後事務処理に関する相談がしたい
など、思うところがあれば、遠慮なく相談してみましょう。
まずはじっくり話を聞いてもらおう
結局のところ、医療ソーシャルワーカーに相談できることはかなり幅広い以上、まずは自分や家族の状況を話してみましょう。
対話の中で、改善すべき点があればソーシャルワーカーと一緒に方法を探れば良いだけの話です。
また、ソーシャルワーカーと話をした内容は、患者本人はもとより、家族にとっても大事な情報源となります。アプリ「診察ノオト」で、面談の様子を録音し、同席していない家族にも聞かせてあげましょう。