転院する際は紹介状はマスト
- 主治医との相性が合わない
- 引っ越すため、通院し続けるのが難しい
- 特定の曜日にしか通院できない
など、様々な事情でこれまで通っていた医療機関を変えざるを得ないのは決して珍しくありません。その際に必要になるのが、紹介状(診療情報提供書)です。
紹介状がなぜ必要と言われるのか
そもそも、紹介状がなぜ必要になるのかを考えてみましょう。理由としては
- これまでの治療に関する情報を共有できる
- 費用が節約できる
の2つが挙げられます。
まず、前者についてですが、紹介状にはこれまで行ってきた治療・検査の結果や経過が記載されています。紹介先の医療機関の担当医が見れば「ここに来るまでどういう状態だったのか」が一目瞭然であるため、重複する検査や治療を行う必要もありません。
また、大学病院などの大規模な病院に転院したい場合、紹介状なしで転院してしまうと「選定療養費」という費用が上乗せされます。これは、大規模な病院に患者が殺到して、本当に必要な医療が提供できなくなるのを防ぐために厚生労働省が定めた制度です。
実際に選定療養費としていくら課されるのかは、医療機関によってまちまちですが高いと1万円を超えるケースすらあります。
できるだけ、紹介状を用意して転院した方が良いでしょう。
通常、医師に依頼すれば紹介状は書いてもらえますが、何らかの事情で用意できないことは十分に考えられます。
- 仮に、用意できなかった場合はどうすれば良いのか
- 代わりに使えるケースものはないのか
ケースごとにわけて対応を考えてみましょう。
ケース1.主治医に断られた
昨今は、医療が高度化・専門化しているため「自分の得意とする分野以外のことは他の医師に任せるのも一つの選択」と思っている医師が多いです。そのため、転院を切り出したところで、即トラブルになるのは考えにくいし、紹介状だって快く書いてくれるでしょう。
一方で、数としてはかなり少ないですが、転院したい旨を切り出した途端「自分の診療方針に文句があるならもう二度と来なくて良い」と言い出すプライドの高い医師もいます。このような医師に当たった場合、どうすれば良いのかを考えてみました。
基本的には「書いてもらえるように交渉する」が答えになります。
当たり障りのない理由をつける
まず、方法として
- 引っ越すため、通院し続けるのが難しい
- 特定の曜日にしか通えない
など、当たり障りのない理由をつけて転院したい旨を伝える方法が考えられます。
ただし、医師によっては「どこに引っ越すのか」「なぜその日にしか通えないのか」をしつこく聞いてくる可能性があるため注意が必要です。
家族から伝えてもらう
自分で伝えても話にならない、と思った場合は家族から伝えてもらうのも1つの手段です。交渉の仕方が上手な家族の話であれば、主治医も耳を傾けてくれることは往々にしてあります。
ただし、プライドが極めて高い医師の場合「それでも、自分の元で治療を受けるのが一番だから」と耳と貸してくれない可能性もあることには注意が必要です。
ソーシャルワーカーや専門の相談室に相談する
大きな病院であれば、ソーシャルワーカーが常駐していたり、医療安全相談室などの名称で相談室が設置されていることがあります。
仮に、主治医から紹介状を書くことを断られた場合も相談してみると良いでしょう。「なぜ転院したいのか」について話を丁寧に聞いてくれて、紹介状を書いてもらうよう調整を進めてくれるはずです。
市区町村の医療安全相談を利用する
一方、クリニックや診療所などの小規模な医療機関の場合、相談室やソーシャルワーカーを独自に設置していることは期待できません。このような医療機関にかかっていた場合は、市区町村役場が運用する医療安全相談を利用しましょう。
担当職員やソーシャルワーカーが相談に乗ってくれ「紹介状を書いてくれない」を含めた医療現場でのトラブルの相談に対応してくれます。
転院先として検討している医療機関に相談する
また、転院先として検討している医療機関に連絡をし「転院したいと思っているが、主治医が紹介状を書いてくれない」旨を相談してみましょう。
転院先の医療機関側の担当職員やソーシャルワーカーが、主治医および現在かかっている医療機関に対して交渉を行ってくれることもあります。主治医のプライドが高くて大変な場合であっても、同業者からの頼みであれば無下に断れないので、案外有効かもしれません。
いずれにしても「自分や家族が困っている」ことを率直に伝えるのが大事です。
ケース2.医療機関が突然閉鎖された
主治医に紹介状を書いてもらうよう頼んでも断られるパターンの場合、交渉次第で解決は十分に目指せます。しかし
- 経営母体である医療法人が倒産した
- 院長やスタッフが失踪し、業務が続けられなくなった
- 放火などの事件に巻き込まれた
などの理由で、医療機関が突然閉鎖されてしまった場合、紹介状を用意してもらうのはほぼ不可能になります。このように、より深刻な事態が起きている場合、どうすれば良いのか考えてみましょう。
基本的には「地方自治体からの要請に従い、集められる情報を代わりに使って対応する」が答えになります。
地方自治体からの発表に従う
同一都道府県内で医療機関が突然閉鎖されるような事態が起きた場合、地方自治体は
- 相談窓口を開設する
- 近隣の医療機関に対して協力要請を行う
などの対応を行います。
まずは地方自治体のWebページを見たり、関連部署に問い合わせたりして、何らかのサポートが受けられないかを確認しましょう。
大規模な医療法人の倒産や重大事件の場合、数日中に地方自治体の関連部署が対応をとりまとめて発表します。公式Webサイトに掲載されるので、チェックした上で不明点があれば相談しましょう。
カルテ開示請求を行う
経営母体である医療法人が倒産したり、院長やスタッフの一部が失踪したりした場合、カルテ開示請求を行う余地があります。
倒産した医療法人が経営するクリニックに通っていた場合は、別の医療法人が情報開示業務を受託する形で進められることが多いため、状況がどうなっているかを確かめましょう。
なお、カルテ開示請求にあたっては所定の費用および身分証明書の用意が必要です。また、すべてのカルテのデータが引き継がれているとは限らないため、自分が望む情報がすべて手に入るとは思わない方が良いでしょう。
積極的に協力を表明している医療機関を当たる
クリニックが放火に遭うなどの重大事件が起きたり、運営母体の倒産などにより突然閉鎖されたりした場合、近隣の医療機関の多くが積極的に協力を表明します。近隣で起きた事件により行き場を失っている患者を受け入れるのも医療機関の大切な役目、という気持ちで真剣に取り組む医療従事者はやはり多いのです。
このような医療機関であれば、紹介状が用意できない原因が明らかである以上、即座に断ることはまずしません。
「通っていたクリニックが閉鎖されてしまって」と言えば、大体事情は察してくれます。
もちろん、自分であたりがつけられない場合は、地方自治体が開設している相談室を頼りましょう。
自暴自棄になるのはNG
クリニックが突然閉鎖された場合、自分に合った主治医が見つけられるかがわからない以上、大半の人は不安を強く感じるはずです。不安のあまり「だったらもう病院通い止めよう」と自暴自棄になり通院、服薬を中断してしまう人もいますが、これはあまりおすすめできません。
特に、慢性疾患の場合、通院、服薬を中断したことで容態が一気に悪化し、手遅れになることも考えられます。
主治医との信頼関係は1回や2回通った程度で築けるものではありません。それよりも、まずは通院、服薬を中断させないことを考え、医療機関に通うようにしましょう。
これまでの治療の経過をまとめたものを代わりに使おう
放火などの事件に巻き込まれた場合、書面のカルテや電子カルテのデータが入ったコンピュータも被害を受けています。カルテ開示請求を行うことはほぼ不可能になるため、ひとまず自分でこれまでの治療の経過をまとめましょう。
- どういう理由で通院を始めたのか
- どんな検査、投薬、治療を行ってきたか
- 経過はどうなっていたか
など、手掛かりになりそうな情報を自分なりにまとめましょう。
- お薬手帳
- 各種検査の結果
などがあれば、それもひとまとめにしておくのもおすすめします。
また、主治医の診察の音声データがあれば、転院先になる医療機関の担当医に聞いてもらうと良いでしょう。
どういう様子で診察が行われていたかの重要な参考になります。診察の様子を簡単な操作で録音できる「診察ノオト」も活用する価値大です。