病院やクリニックでの写真・動画撮影、録音はアリ?ナシ?
自分や家族が病院・クリニックで診察を受ける際
- 医師の説明を聞き漏らしたくない
- 他の家族への状況説明に使いたい
などの理由で、診察の様子を写真や動画で撮影したり、録音したりなどの方法を考える人もいるかもしれません。
一見合理的に思えますが、そもそもこれは違法ではないのか、合法でもトラブルの原因にならないのか、気になる人もいるでしょう。
実際のところはどうなのか、調べてみました。
写真・動画撮影=基本的にナシ
まず、写真・動画撮影についてですが「やらないほうが無難」というのが答えです。その理由として
- 他の患者のプライバシーを侵害する可能性が高い
- 病院・クリニックでは個人情報について厳重な取り扱いを求められる
ことが挙げられます。
他の患者のプライバシーを侵害する可能性が高い
例えば、病院に入院した人が、出された食事の写真を何気なく取り、TwitterなどのSNSにアップロードしたとしましょう。
その時、他の患者が映りこんでいたとしたら、SNSにアップロードした時点で「本人に無断で写真を公にさらした」ことになります。
これは、個人の肖像権を侵害する行為に当たるおそれが高いため、絶対にやってはいけません。
映りこんでいた人から
- 差し止め請求(SNSの場合は削除要請)
- 慰謝料・損害賠償の請求
を起こされるなど、深刻なトラブルに発展する可能性もあるので、注意しましょう。
例外的にOKのケースももちろんある
なお、テレビ局や新聞社・出版社などの報道機関が正当な手続きを踏んで病院内で写真・動画撮影を行うことは、違法ではありません。
また、子どもが生まれたときに、写真・動画を撮影することも、事前に許可を得ることで認めるケースが多くなっています。
あくまで「家族の大切な記録」として写真・動画を撮影するという明確な目的がある上に、ルールを守っている限りは、他の患者のプライバシーを侵害する可能性は低いと考えられるためです。
録音=状況次第ではあり
次に、録音についてはどうなのか考えてみましょう。
法的にはただちに犯罪には当たらない
仮に、医師ともめたくないからという理由で、無断で録音したとしても、ただちに法律上の問題が生じるとは限りません。
会話当事者の一方が相手方に同意を得ずに会話を録音することを秘密録音と言います。
いわば「医師に無断で診察の様子を録音する」ことも秘密録音に当たりますが、最高裁は秘密録音に関し
たとえそれが相手方の同意を得ないで行われたものであっても、違法ではなく、その録音テープの証拠能力は否定されない
という判断を下しています。
出典:裁判例結果詳細 | 裁判所 – Courts in Japan
もちろん、動画や写真の場合と同じで、話した人や企業が特定できる状態で一般公開した(例:SNSにアップロードした)場合には、名誉棄損やプライバシーの侵害に当たる可能性が出てくるので注意が必要です。
しかし、一般公開を行うことなく、
- 医師の説明を聞き漏らしたくない
- 他の家族への状況説明に使いたい
などの理由で録音した場合にまで、訴訟を起こされるリスクは限りなく低いと考えましょう。
【参考】アメリカでは州ごとに扱いが異なる
なお、アメリカでは「医師の診察を録音すること」への扱いが、州ごとに異なります。
2017年7月時点でのデータですが
- コンセント=医師の同意なしの録音は違法としている:11州
- 医師の同意がなくても録音は可能としている:39州
という分布になっています。
出典:7月25日:診察室でのやり取りを録音していいか?(7月10日号米国医師会雑誌掲載コメンタリー) | AASJホームページ
なお、大半の人が訴訟の際の資料として使うために録音するのではなく
- 家に戻った後、自身で振り返りをしたい
- 家族などの介護者にも情報を共有したい
などの理由で録音しています。
このように「あくまで私的な範囲での利用」であれば、たとえ「医師の同意なしの録音は違法」とされている州であっても、実際は医師の同意を得て録音できるケースが多いと考えられるでしょう。
施設管理権を行使して禁止することはできる
一方、病院やクリニック側にも、動画・写真の撮影や録音を禁止できる法的根拠はあります。
根拠となるのが施設管理権です。
施設管理権とは
施設の管理者(=所有者 施設管理権原者)が所有する施設を包括的に管理する権利権限
を指しますが、平たくいうと「トラブルを起こさず、円滑に施設を運営できるよう、利用者に対して守るべきルールを策定することができる権利」と考えましょう。
病院やクリニックにとっては、訪れる患者や治療にあたる医師・看護師等のスタッフのプライバシーや個人情報を守るのは重大な責務です。
そのため、施設管理権に基づき、プライバシーや個人情報の流出につながる動画・写真の撮影や録音を禁止することには、一定の合理性はあるでしょう。
もちろん、あくまで「患者や医師・スタッフのプライバシー・個人情報の保護」が主眼にあるため、患者から希望があった場合は
- 他の患者や医師・スタッフのプライバシー・個人情報を侵害しないか
- 録音を許可することが、患者の利益に資するか
を総合的に判断して決めることになります。
「絶対にNG」とは限らないので、まずは頼んでみることが大事です。
診察での医師の話を録音したい場合の手続き
実際のところ、病院やクリニックでの診察の際、医師の話を録音することができるかは、ケースバイケースです。医師の了解が得られるかどうかが問題になります。
そこで、実際に診察での医師の話を録音したい場合、どのように進めていくのがふさわしいのかについて解説しておきましょう。
1.まずは医師に確認する
最もやってはいけないことは「医師に無断で録音する」ことです。
既に触れた通り、医師に無断で録音した = 秘密録音をしたとしても、それだけでただちに違法になる可能性は低いです。
しかし「人に黙って録音すること」自体は、相手が医師でなくても気分が良いものではありません。
医師も仕事である以上、たとえ「自分に黙って録音していた患者」であっても、診察・治療にはあたってくれるはずです。
それでも、人間である以上「黙って録音するような人は信頼できない」と思わない可能性はゼロではありません。
不信感を抱かせないためにも、確認をするのは忘れないようにしましょう。
もちろん、患者側の伝え方も工夫するのが大事です。
- 会社の人事面談があるのでその時に話をしたい
- 遠方に住んでいる家族・親族に状況を説明したい
- 自分や家族の生活習慣の改善に役立てたい
- 専門用語を丁寧に調べたい
など「録音したものを何に使うのか」も添えて話すほうが、医師への理解も得やすくなります。
「自分や家族の利益のためであって、訴訟の際の資料やSNSへのアップロードへの利用など、医師の不利益になる行動を起こすためではない」点がクリアになれば、医師の対応も変わるはずです。
早めに機材は準備を
また、早めに録音する機材は準備しておきましょう。
ボイスレコーダーがあるならそれを使ってもかまいません。
ただし、話が長くなった場合は、思わぬタイミングで電池切れを起こすことがあるので、電池の残量には注意してください。
最近ではスマートフォンのアプリでも十分に性能が優れています。
特に、医師との診察の様子を録音することに特化したアプリ「診察ノオト」は操作が簡単で、初めてこの類のアプリを使う人にもわかりやすいです。
2.録音開始・終了の際は合図をする
また、録音する際も、医師にはっきりと「今、録音していますよ」ということが伝わるようにしましょう。
- スマートフォン、ボイスレコーダーなど録音に使う機材は机の上に置く
- 「これから録音を始めます」「ここで終わります」など、明確に録音をしていることがわかる合図をする
など、気遣いを欠かさないようにしてください。