差額ベッドを巡ってトラブルになることも
一般的に、病院に入院する際に使用する病室は、4人 ~ 6人の大部屋(それ以上のケースもある)であることがほとんどです。
- 人がいっぱいいると落ち着かない
- 仕事の連絡が入ったりする
など、相応の理由があれば個室や定員の少ない部屋を利用したいと思う人もいるでしょう。
もちろん、自分から「個室か少人数の部屋が良いです」と話して、入院時に案内してもらったのなら、何ら問題はありません。事前に説明された通りの差額ベッド代を支払えばそれで終わりです。
しかし、残念なことに、病院によっては事前に丁寧な説明もなく、差額ベッド代がかかる個室や少人数の部屋に入院させ、あとから差額ベッド代を請求するというトラブルを起こすこともあります。
差額ベッド代は決して安くない上に、全額自己負担です。具体的な金額は、病院や使用した部屋によっても異なりますが、1日あたりの料金が10万円を超えるケースも散見されます。
しかも、高額療養費制度や医療費控除など、医療費の負担をやわらげる制度も使えません。あくまで「自分の都合で」「自分が望んで」使うものであるという考え方も背景にあります。
そこで今回は、入院する際に、自分の意に望まない形で差額ベッド代がかかる部屋に入る羽目になるというトラブルに備え、確認すべきことやもめた場合の対処法について解説しましょう。
病院の個室に入るときに確認すべきことは?
ここから先は、病院の個室に入る時に確認すべきことを順番に解説していきましょう。
1.差額ベッド利用に関する同意書の取り交わしをしたか
差額ベッド代がかかる病室の利用を打診される場合、事務職員や看護師などの担当者から口頭での説明があるのはもちろん、病院所定の同意書の取り交わしを行うはずです。
差額ベッドを利用する際は、同意書の内容を確認し、サインをすることで「私は差額ベッドを利用することに対して十分な説明を受け、同意して利用します」という意思表示を行ったことになります。
もちろん、もともと差額ベッドを利用するつもりであったり、丁寧な説明を受けた上で内容を理解し、その上で同意したのであれば、何ら問題はありません。
しかし
- 他の書類をサインするついでに何となくサインしてしまった
- 実は自分は納得が行かないからサインをしなかったのに、無理やり口頭で言いくるめられてしまった
場合は、トラブルの引き金になるので注意しましょう。特に、同意書にサインをしていないのに、無理やり口頭で言いくるめられてしまった場合、本来は差額ベッド代を支払う必要はありません。
差額ベッド代がいくらなのかをわかりやすく示す必要がある
2.治療上の必要性から差額ベッド室を使うことに対する説明があったか
病院に入院している場合であっても、治療上の都合から、大部屋ではなく個室か少人数の部屋を使用したほうがよいケースというのは多々発生します。
感染症を防いだり、病気の影響による自傷・他傷行為が原因で他の患者とトラブルを起こしたりするのを防止するなど、合理性のある理由があれば、個室や少人数の部屋を使わざるを得ません。
そして、このようなケースでは、差額ベッド代を患者に負担させてはいけない決まりになっています。
具体例としては、以下のようなケースが考えられるので、参考にしてください。
- 救急患者、術後患者等であって、病状が重篤なため安静が必要、又は常時監視を要し、適時適切な看護及び介助を必要
- 免疫力が低下し、感染症に罹患するおそれがある
- いわゆる「終末期」にあり集中治療の実施、著しい身体的・精神的苦痛を緩和する必要がある
- 後天性免疫不全症候群の病原体に感染している
- クロイツフェルト・ヤコブ病にり患している
なお、治療上の都合で大部屋ではなく個室か少人数の部屋を使わざるを得ない場合は、医師や看護師、病院の事務担当者から丁寧な説明があるはずです。
家族も同席し「この場合は、差額ベッド代はかからないのでしょうか?」とはっきりと質問しましょう。他の家族と情報共有をするためにも、その様子を音声録音アプリ「診察ノオト」で録音しておくのも一つの手段です。
3.病院の都合で差額ベッド室に入院させられた可能性がないか
病気やケガの状態による治療上の都合でなくても、どうしても個室や定員の少ない部屋を使わざるを得ないケースも考えられます。
例えば、できるだけ早めに手術をした方が良いから入院をしたものの、大部屋が満杯で、たまたま空いていた個室を使うことだってあるでしょう。もちろん、患者本人が事前に差額ベッドを使いたいと希望していた場合は別ですが、あきらかに病院の都合で使わざるをえない事態になった場合は、患者は差額ベッド代を支払う必要はありません。
また、MRSAなどの感染症に感染していた場合、他の入院患者へ院内感染をすることを防ぐため、個室や少人数の部屋に移さざるを得ないケースもあります。
この場合も、結局は「病院の都合」であるため、差額ベッド代を支払う必要はありません。
差額ベッド代のことで病院ともめた場合の対処法
結局のところ、差額ベッド代も含め、病院と患者がもめる大きな原因の1つは、コミュニケーションミスです。
今回話題にしている差額ベッド代も、病院側の担当者側が設備や料金等について明確・丁寧に説明し、患者側の同意が確認できている場合は、差額ベッド代を徴収できるという決まりがあります。
参照:厚生労働省「厚生労働省保険局医療課事務連絡平成30年7月20日事務連絡」
やり取りを整理する
いずれにしても、差額ベッド代を巡って病院ともめた場合は、これまでにどんなやり取りをしていたのかを整理しておきましょう。
- 入院時に差額ベッド代に関する口頭での説明があったか
- 同意書の提示があり、自分か家族がサインをしたか
- 差額ベッド代がかかる個室等の種類、料金等は院内にわかりやすく掲示されていたか(チラシや冊子をもらったか)
- 差額ベッド代のかからない病室を希望したのに、移動させられた場合は理由に関して丁寧な説明があったか
をメモにまとめれば大丈夫です。やりとりの音声録音が残っていれば、重大な証拠になるためバックアップをとっておくのも効果的でしょう。
そもそも、自分や家族の入院の際は、差額ベッドのことも含めて、確認しなくてはいけないことが非常に多いです。一つ一つ丁寧に進めていきましょう。
できることなら、遠方に住んでいる家族にも後日情報を共有できるように体制を整えた方がよいかもしれません。そんな時にも、簡単に音声で記録が取れる「診察ノオト」は役に立ちます。
メモをとるのも効果的ですが、ただでさえ肉体的にも精神的にも疲労しているうえに、様々な分野に飛ぶ説明を聞き続けて何かを書くのは非常に酷です。音声で録音した方が、肉体的にも精神的にも楽な上に、正確な情報が得られるでしょう。
同意書にサインしていた場合は他の方法で支払えないか探る
自分や家族が無意識のうちに同意書にサインしてしまっていることは、往々にしてありえます。この場合、基本的には自分たちで支払いをせざるを得ません。
加入している医療保険の保険会社に連絡をし、支給される給付金を差額ベッド代の支払いに使っても良いかを一度確認しましょう。ほとんどの場合でOKが出るはずです。
また、万が一支払えそうにない場合は、各党道府県の相談窓口に事情を話し、判断を仰ぎましょう。病院に交渉し、一括払いできない部分については分割払いにしてもらうなど、方法を探ってくれるはずです。
支払わなくても良い場合に該当する場合は弁護士への依頼も視野に
むしろ、より対処が難しいのは、治療上の都合や病院の都合で、自分たちの意に反して差額ベッド代がかかる病室を利用せざるを得なかったにも関わらず、そのことに対して説明がなかった場合です。
退院の日になってまとめて差額ベッド代を請求されたら、ひとたまりもありません。このような場合も、それまでの経過をまとめた上で、まずは病院側に「支払わなくても良い場合に該当する」ことを伝えてみましょう。現実的には、病院側の担当者との話し合いをし、双方に落としどころが見つかれば問題ありません。
しかし、落としどころが見つからない場合は、都道府県の相談窓口に事情を話してみましょう。担当者が丁寧に状況をヒアリングしたところで、現実的な対応策を探ってくれます。
また、長期の入院であったため、最終的な差額ベッド代が高額になった場合は、弁護士に相談して病院側と交渉するのも一つの手段です。ただし、弁護士に依頼する場合決して費用は安くないので、差額ベッド代とのバランスを見ながら、依頼するかどうかを決めましょう。